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2007/05/09

あのカリスマ・ライターの最新作が登場!

あなたにとって座右の書は何か?と問われれば、迷わずあげたい1冊の本がある。
JRA全競馬場・コース完全解析「コースの鬼!」セカンド・エディション・・・・ライター・城崎哲氏の手により、今から3年前に世に出されたコース攻略本のスタンダードというべき名著である。

Charisma_soutei_shiゲートの置き位置、コーナーの形状、四季を通じた芝の生育状況、はたまた天候によるトラックバイアス・・・・誰もがその全容を知りたくても知ることの叶わなかった競馬場のコースをめぐる様々なディテール。それを、ここまで深く解析しきった本は他にあるまい。一見取るに足らない条件変化であっても、それがサラブレッドの能力とは別の次元でレースの質に影響を及ぼし、結果が着順となって表現される。そんなメカニズムを筋道立てて解説し、コース設定とレースの質との間を結ぶ因果関係の糸を、鮮やかに読者の前に提示してみせた筆者の力量には、思わず舌を巻いたものだ。この一冊を手に取った前と後とでは、競馬に対する見方が180度変わったとまでは言わないが、これまで当ブログが書き散らしてきた予想エントリのなかには、城崎氏の著作に直接・間接的にインスパイアされて出来あがった記事も少なくない。
机上の考察だけでは、とうてい到達不可能と思える著者の分析力と引き出しの多彩さ。それを支えているのが、現場に対する密着取材というスタンスである。
コースの鬼」執筆当時には、日本一地味な園芸土木系ライターとして、JRAの馬場造園課に「弟子入り」。何と2年間もの長きにわたって日本全国の競馬場行脚を続けたという。そんな経験から吸収した現場ならではの知見やノウハウを、惜しげもなく著作に注ぎ込んでくれるのだから、これはもう面白い読み物が出来上がらないわけがない。ただし、1冊の本をまとめ上げる仕事には、途方もない時間と労力を必要とするタイプのようで、ややもすると粗放乱造の嫌いのある競馬本がらみのライターのなかにあって、城崎氏の寡作ぶりは異彩を放っているとも言えるだろう。
その城崎氏が3年間の沈黙を破り、世に問う新作が登場した。「競馬王」の白夜書房から新書版スタイルで発刊された新作のタイトルは「カリスマ装蹄師 西内荘の競馬技術 空飛ぶ蹄鉄をいかにデザインするか」。ご存じディープインパクトの装蹄を手がけ、その名を世に知らしめたカリスマ装蹄師・西内氏を相手に、著者が密着取材して知り得たノウハウが、約180ページのボリュームに手際よく構成されている。

本書のあとがきによれば、この本の企画は当初、ディープインパクトの凱旋門賞直前のタイミングを狙って出版することを目論んでいたらしい。一般マスコミも巻き込んで盛り上がっていた当時のブームに便乗しようという出版社の思惑が感じられるが(白夜書房とは別の会社からの出版を予定していた)、結果として発行は遅延。そのせいだろうか?本作は単なるディープ本ではなく、西内氏の装蹄技術という地味目なテーマをより深く探求するという構成になった。「コースの鬼!」の続編を期待してた自分のようなファンにとっては、ハッピーな出来事である。

競走馬への蹄鉄の装着というと、装蹄師が両足の間に馬の脚を挟み込んで保定しながら、金槌でトントンと釘を打ち込んでいくというイメージがある。また、南関競馬の予想屋さんの世界では、「勝負鉄」(軽量のアルミ合金鉄)に打ち替えたから狙い目!などという情報が今でもまことしやかに流通しているのかもしれない。
しかし、本書で明らかにされる取材成果によるなら、装蹄技術の世界は日進月歩。蹄壁が薄くダービー直前にはボロボロの状態になっていたディープインパクトの蹄をケアしていたのは、釘を使用しない西内氏の接着装蹄技術だったというし、柔らかい素材で弊害も多い「勝負鉄」などを使うのは完全に時代錯誤になっているらしい。脚元の無理な矯正は行わない。けれどその一方で、重賞レースなどここ一番では「歯鉄」(スパイク鉄の一種・JRAでは高さ2ミリまでの歯鉄が認可済み)を使用することも厭わない。そんなスタンスを矛盾なく採用していることに、西内装蹄所の担当馬が躍進を続ける秘密がある。さらに本書には、蹄鉄のお話以外にも、競走馬の距離適性や気性、フケや馬っけの問題など、馬券を買うために是非知っておきたい現場情報が満載だ。

競馬場のコースをめぐるディテールから、サラブレッドの脚元に関わる知られざる情報まで。一見脈絡がないようにも思えるどんな分野にも、深く狭く突き刺さっていく著者の探求心の旺盛さには、とにかく圧倒されるばかりだが、そんな城崎氏の心中が思わず吐露されている本書のなかの一節が、また秀逸である。

私は20代の頃からずっと、競馬の秘密(=必勝法)を探し続けてきた。
そう。私は必勝法探求家なのだ。
それを口にすると母親が嘆き悲しむので、これまであまり口に出して言ったことはなかった。というより自分でも最近まで気がつかなかったと言ったほうがいいか。そんなマンガみたいな人生を送っていると認めたくなかったので、自分が探しているものが何かをできるだけ見ないふりをしていたのだ。
だがかつて編集者としてスピード指数の本を出したり予想ソフトを作ったりしたのもそのため。ライターとして種牡馬辞典や血統解説やコースの解説書を書いたり、ハンデキャッパーの教えをまとめたり、獣医やウマ学者や分子遺伝学者たちの考えを聞いたりしてきたのもそのため・・・・・・と考えると、私の意味なさげな人生の符合が明らかになってくる。

城崎哲「カリスマ装蹄師 西内荘の競馬技術」より引用

そう。実生活に何ら役に立つことがないこんな本を読んで思わずニヤリとしていたり、ロクでもないブログを3年間も続けていたりする自分も、ひょっとして必勝法探求家の端くれなのかもしれない。そんな競馬ファンの興味・関心にピタリとフィットする良作を生み出し続けるカリスマライターの飽くなき探求から、今後も目が離せなくなりそうだ。

5月 9, 2007 書籍・雑誌 |

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コメント

昨日ようやく手に入れ、一気に読み終わりました。
大変興味深く読みました。非常にためになる本だと思います。
これで馬券の回収率が上がるとかそういうのではなく、今後競馬というものがよりいっそう面白くなるような気がします。
普段は競馬関係の本には一切興味がないので、このブログの記事がなければ読むことはなかったでしょう。
このようなすばらしい本に出会わせてくれて、本当にありがとうございました。

投稿: こべぇ | 2007/05/29 22:15:35

こべぇさん、コメントありがとうございます。
ネタバレになりますが、カリスマ装蹄師・西内氏が本書のなかで、現3歳世代の素質上位馬としてその名をあげていたのが、ヴィクトリー、ウォッカ、オーシャンエイプスの3頭でした。うち2頭がクラシック制覇という結果ですから、その慧眼には恐れ入るばかりです。ダービー2着馬アサクサキングスも西内師の担当馬で、エクイロックスの接着装蹄だそうです。
残念ながら、ダービーでは本書の教えを馬券に結びつけることができませんでしたが、いつかオーシャンエイプスと平田厩舎狙いでこの借りを返したいと心に誓っています。ではでは。

投稿: 山城守 | 2007/05/31 1:12:18

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