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2007/02/13

「GO-ONE」と書いて「豪腕」!

408746123801_aa240_sclzzzzzzz_競走馬とそれを取り巻く人々の息遣いがリアルに伝わってくるような臨場感にあふれた傑作小説「ジョッキー」。その著者・松樹剛史氏の手よる待望の競馬青春小説・第2弾が発売された。
新作に与えられた題名は「GO-ONE」と書いて「豪腕」・・・・そんなふうに読ませるタイトルからも想像できるように、今度の主人公は、地方競馬所属ながら腕っ節の強さと追える技術で、次々と勝利を積み重ねる若手騎手(日下部一輝)という設定だ。
地方所属の若手騎手という先入観もあって、主人公のモデルは金沢競馬の吉原寛人とか、岩手の村松学あたりだろうか?とも考えたが、本作の豪腕の持ち主、ああいうスマートなイケメン系ジョッキーとは、ちょっとイメージが違う。自分の腕と意志だけで「どんな馬に乗っても勝つ」と豪語する傍若無人な性格。肘を曲げると巌のような力こぶが隆起するボディービルダー顔負けの体形。少々能力が足りない競走馬だろうと何だろうと、力まかせに先頭にもっていき、そこから手綱やムチだけではなく拍車まで繰り出して、脚が上がった馬を追いまくる強引さ。物語のなかで描かれるそのようなエピソードから浮かんでくる風貌は、どちらかといえばJRAの田中剛を20年ほど若返らせたようなゴッツイ頑固者といったところだ。肉体美と腕力・技量だけなら、大井の至宝・ポパイ内田博を連想する自由も読者には許されているが、おそらくこの小説の主人公は、あんなジェントルマンじゃない。
物語は、その豪腕騎手・日下部一輝を中心に、彼の活躍の場である「春名競馬」の厩務員(主人公の妹)と、遠征先のJRAに所属している二人の若手騎手が語り部となって、群像劇の形式で進行する。

地方競馬が舞台の小説となれば、赤字による存廃問題であるとか、外厩制度の導入であるとか、この世界を賑わすリアルタイムな話題も、避けては通れない。実際、本書に登場する競走馬のなかには、80戦勝の連敗記録を更新し続け世間の耳目を集めるハルウララもどきや、外厩からJRA競馬に挑戦を続ける地方の怪物(コスモバルク?)を彷彿とさせる馬もいて、彼らにまつわるエピソードを絡めつつ、中央・地方の特殊な二重構造に起因する日本競馬の「現在」をあぶり出しにしようという、著者の試みが読み取れる。競馬といえば、JRAのG1・重賞レースぐらいにしか興味を持たないライトな読者層には、ちょっと馴染みのない競馬界のディープな一面。それを小説というジャンルで世に知らしめようとした筆者の意気込みは買える。
だが、惜しむらくは、わずか200頁強のボリュームにあまりにも多くのエピソードを詰め込みすぎてしまい、消化不良の印象を与えてしまう箇所が散見されるところだ。巻末の主要参考文献には、「殴る騎手」「崖っぷちジョッキー」といった騎手関係の読み物や、藤沢和雄調教師の「競走馬私論」など、競馬サークルの内情を知るうえでは定番というべき書物の名が列挙されているけれど、これらの資料から吸収した知見をもう少し再構成して、洗練した形で読者の前に提示して欲しかった。登場人物たちが、やたらと「ハッピーピープル・メイク・ハッピーホース!」と連呼する場面などは、すでに藤沢師の著書を一読しているコアな競馬ファンからすると、ちょっと気恥ずかしくなってしまうところだ。

とはいえ、この著者の持ち味であるレースシーンの迫真の描写は、前作に続いて、ここでもたっぷりと堪能することができる。特に、物語の中盤で描かれるJRAの女性騎手(競馬学校を首席で卒業し、アイルランド大使賞を受賞した誇り高きアスリートという設定)と主人公による、意地と意地がぶつかり合う追い比べなどは、スポーツ小説の醍醐味と評するに相応しい名場面というべきだろう。
ちょっとコミカルな印象を漂わす主人公の言動の背景に、誰にも言えないトラウマが横たわっていたという小説の基本的骨格は、前作「スポーツドクター」とも共通する構成。良い意味で読者を裏切らないスポーツ青春小説の良作として、誰が呼んでも楽しめる作品に仕上がっていると思う。次作への期待も込めて、当ブログのお薦め小説として紹介してみたい。

2月 13, 2007 書籍・雑誌 |

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