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2007/02/25

【中山記念】レース前半のペースが分水嶺に

Shadow_gateat_the_derby_2005開幕週にふさわしく前を行く逃げ・先行馬の脚勢がゴールまで衰えないケースと、中団・後方から台頭する馬が一気に先行勢を交わし去って差し競馬になるケース。近年の中山記念の決着傾向を振り返ってみると、一見対照的と言うべきこの2つのパターンが交互に繰り返されてきたように思える。
2つの決着パターンを分かつ分水嶺というべきファクターは、レース前半のペースだろう。前半1000メートル(5F)が59秒台より緩い中距離的なペースになると逃げ・先行馬が踏ん張って、59秒を切るマイル的な緩みの無い流れになると差し・追い込みの競馬になる。昔、JRAのテレビCMで女優の鶴田真由が諳んじていた「ハイペースなら差し馬が有利、スローペースになれば逃げ・先行馬が有利」という初心者向けの競馬のセオリーが、ここでは素直に通用してしまうわけだ。

■中山記念 過去7年の決着傾向

逃げた馬着順前半5F1着脚質2着脚質
06年バランスオブゲーム1着60.9逃げ先行
05年ダイワバンディット
エルカミーノ
5着
14着
59.2先行追込
04年ローエングリン3着57.6差し追込
03年ローエングリン1着59.5逃げ先行
02年ゴーステディ12着58.3差し差し
01年エーピーグリード9着58.5先行先行
00年クリスザブレイヴ6着58.0差し差し

中距離戦で前半59秒といえば、けっして息を入れやすいスローペースとは言えないけれど、後続もなし崩しに脚を使わされてしまう分、03年優勝当時のローエングリンなど、マイペースで行ける力をもった先行馬にとっては歓迎すべき条件だ。まして、昨年のバランスオブゲームのように、誰にも邪魔されず前半1000メートルを60秒台にまで落として行ければ、もう後続を術中にはめたも同然だろう。

開幕週・Aコース替わり、さらにはコーナー4回の内回りという条件設定を考えれば、本質的には「先行有利」がトレンドというべきこのレース。差し馬が先行勢を負かすためには、やはり展開の助けが必要だろう。なるほど、先行有利の展開をもろともせず、後方から連対圏にまで届いた差し馬の活躍事例はあるけれど、一昨年のカンパニー(2着)などは最内から馬群を縫うように差してきており、距離ロスを最小限に抑えた戦法が好走の決め手になっていた。実質小回りコースで、外・外を回していく不器用な競馬しかできないタイプでは、よほどのハイペースにならない限り前には届かない。馬込みに怯まぬ根性の持ち主か?最内から突き抜けるほどの決め手はあるのか?差し馬の取捨選択は、各馬の適性と過去のレース内容をじっくりと思い起こし、慎重に進めていきたい。

<結論>
◎シャドウゲイト
○エアシェイディ
▲ダンスインザモア
△インティライミ
△ローエングリン
注マルカシェンク
注グレイトジャーニー

前走AJC杯で引っ掛かって失速したインディライミは、前半から他馬の後に入れ折り合っていくことを最優先。ローエングリンも、かつて天皇賞(秋)で大暴走した際のトラウマを背負う後藤が鞍上では、思い切った先行の手は打てない。
そんな各馬の思惑を考慮してみると、シャドウゲイトにとっては、今回も「どうぞ行って下さい」というお膳立てが整った感がある。発馬後、初角に飛び込むまでの距離が短い中山の千八で、外枠からマイポジションを確保できるか?を危惧する見方もあろうが、おそらく15番枠なら無理なく先手を主張できることだろう。鞍上は、バランスオブゲームでこのレースを2連覇中の田中勝春。道中での息の入れどころは十分心得ているはずで、今年も昨年同様、前半1000メートルが60秒台。道中のどこかで12秒台後半までラップを落としてから、早めスパートで後続を突き放してしまいたいところだ。

相手は、緩めのラップのなかでも決め手を温存でき、距離ロスを最小限に抑え捌いてこれる差し脚質の馬に注目してみたい。エアシェイディは、重賞になるとなぜか勝ちきれないが、もともと中距離よりもマイル寄りの距離で決め手を生かしたいタイプ。近走の充実ぶりからも、よほどの不利がなければ上位進出必至だろう。ダンスインザモアも、久々の勝利に気をよくしている近況だけに、2年前のスプリングSで馬群を割ったあの脚を再現してくるかもしれない。以下では、行った行ったの決着も一応想定して、道中前目の位置取りを進む有力どころをマークしおきたい。

キルトクールは、メイショウオウテ
レース前から激しく入れ込んでしまう気性が災いして、力を持てあまし気味の競馬が続いている。脚質的に不利を受けやすく、それを避けようとすれば外・外を回していくしかない。引退の花道を飾る名伯楽が最後の最後に関東の重賞へと送り込んできた刺客だが、かつて強気で鳴らした厩舎サイドのコメントは「一歩前進を期待」と慎ましいもの。過大な期待までは禁物だろう。

2月 25, 2007 07年競馬予想・回顧 | | コメント (0) | トラックバック (6)

2007/02/20

【馬券日記】耳を澄ませば、見えてくる

Cafe_olympus_at_february_stakes_2007競馬場のパドックで、目の前を周回していく馬の気配をじっくりと観察する・・・・競馬をLIVEで楽しむときに、欠かすことのできない楽しみのひとつがこれだ。
しかし、その一方で、「パドックの見方がよくわからない」「馬の善し悪しを見分けるのは難しい」という声もよく聞く。競馬歴10年以上のベテランともなれば、誰もが自分なりの観察のポイントのようなものを身につけているはずだが、それでもパドックで感じた印象を馬券の取捨に即、結びつけてジャッジするのは案外と難しいものだ。何となくわかったつもりでいるけれど、実はよくわからない、それが馬の見方の奥深いところである。
初心者でもわかりやすいパドックのポイントを一つあげてみると、毛づやがピカピカに輝いている馬であるとか、パドックの外周付近を大きなストライドで元気よく歩いている馬は調子が良いという傾向がある。しかし、気温が低下する厳冬期ともなれば、どの馬でも多かれ少なかれ冬毛が伸びて毛づやはくすんでみえるものだし、小さな歩幅でトボトボ歩いているようなタイプでも、馬体の均整は取れており、レースに行くと好走してしまう馬もいるから厄介だ(例えば、森厩舎のシーキングザベストなど)。
その一方で、チャカチャカと落ち着きが無く発汗が目立っている馬(=イレこんでいる馬)は割り引いて評価せよという見解がある。あるいは、見た目に太く映る馬というのも減点材料だろう。だが、フェブラリーステークスを優勝したサンライズバッカスのように、パドックではイレコミ気味でも実戦にいくとその影響は軽微というタイプもいるし、2着のブルーコンコルドなどは、毎度毎度でっぷりと太めの体形に見せるけど、それでも鋭い末脚を問題なく使うことができる。
そんなふうに考えていくと、結局、パドックを見ても、馬券成績の向上には繋がらないんじゃないか?という懐疑的な考えにたどり着いてしまいそうだが、それはちょっと早計だと思う。例えば、物事の真価を見極めるためには五感を研ぎ澄ませとよく言われるけれど、競馬場のパドックでモノを言うのは、いわゆる五感のうち「視覚」に限られすぎているのでは?という気がするのだ。あるいは、直感でビビッときた馬を狙うという第六感重視の作法もあろうが、それとてあくまで「視覚」のフィルターを透過させたうえでの印象だろう。そんな迷いのなか、今週の土日、府中競馬場でパドックにかじりつぎながら、自分が体感したのは「聴覚」の重要性である。

パドックで観客の目の前と通過するとき、「ポックリ・ポックリ」と、ひときわ耳を引きく高らかな蹄音を響かせていく競走馬がいる。例えば、土曜9レース・立川S(1000万下・ダート千四)に出走していたセイウンマルがそれ。そのセイウンマル、前走の積極的レースが評価されたせいか、この日は4番人気の支持を集めていたが、絶好調アンカツ騎乗のエイシンロンバードであるとか、二ノ宮厩舎の良血ユースフルデイズなどを差し置いて、この馬の単勝を買ってみようという酔狂な競馬ファンは、けして多くなかったはずだ。ところが、いざレースになってみると、そのセイウンマルが、居並ぶ実績馬を問題にせず先頭でゴールを駆け抜けてしまったのだから、ビックリ。終わってみれば、距離短縮・軽ハンデという好走要因を指摘することもできるのだろうが、パドックの「ポックリ・ポックリ」が目下の体調の良さを裏づける、もうひとつの傍証となっていたと思う。

日曜日のG1・フェブラリーステークスでも、「ポックリ・ポックリ」馬の激走を目撃することができた。さすがにG1ともなると、出走各馬とも力一杯の仕上げを施されておりパドックに響き渡る蹄音も軽やかだったが、なかでもひときわ大きなボリュームでリズミカルな蹄音を発しつつ周回を重ねていたのが、15番人気の伏兵カフェオリンポスだった。締切り間際の単勝オッズは何と144倍。まさか冗談でも、こんなタイプが激走する可能性など皆無に等しいという低評価だったが、そのような伏兵が直線馬群を縫うようにして伸びて、あわやの4着まで食い込んでくるのだから、競馬は面白い。

実は、この「ポックリ・ポックリ」に注目するという馬券作戦、昨年グリーンチャンネルで放映されていた対談番組「僕らの競馬」で、キャスターの荘司典子さんが披露していたパドック戦法である。そのときは「ふーん」と思ってあまり注意を払わなかったのだが、実際ここまでレース結果に直結してしまうと、視覚のみに依存したパドック観察に加え、聴覚を研ぎ澄ませてみることの有効性をきとんと評価せざるを得ない。「浦和に普通にいる女」恐るべしである。
では、いったいなぜ「ポックリ・ポックリ」が競走馬の体調の良さを裏づけるのか?
蹄や装蹄の状態、あるいはパドックの床面を構成する材質(アンツーカー)の影響など、いろいろと関連するファクターはあるだろうし、東京競馬場以外でこの馬券作戦がどこまで有効性をもっているのか?未知の部分は残る。それでも、競馬ファンのパドックの見方・感じ方に、普通とはちょっと異なるヒントを与えてくれている、この聴覚重視の馬券戦法をさらに深く探求してみたいと思う。「耳を澄ませば、見えてくる」「もっと、鼓動の近くに。」・・・・JRAの今年の宣伝文句ではないけれど、もう少しパドックの最前列で耳を澄ませながら、考えてみたいところだ。

2月 20, 2007 日記・コラム・つぶやき, 07年競馬予想・回顧 | | コメント (4) | トラックバック (1)

2007/02/18

【フェブラリーS】冬場の府中、渋ったダートで問われるもの

Blue_concord_at_garnet_s_2006土曜の午後、淀の上空を覆い尽くしていた冬の雨雲は、そろそろ関東圏まで到達してきそう。府中界隈に位置する当ブログ管理人の住み家から、窓の外を眺めてみても、路面がしっとり湿った状態になってきた。日曜日の東京競馬場は雨予報。馬場状態がどこまで渋化するかは微妙だが、おそらく稍重~重のコンディションでG1レースのファンファーレを聴くことになるのだろう。
(※このエントリは、土曜日の深夜に執筆しています)

雨のフェブラリーSといえば、一昨年のメイショウボーラーのレコード勝ちによる鮮やかな逃走劇を思い出す。前半1000メートル通過が57秒8と、芝のマイル戦並みのハイペース。差し馬有利と言われる東京コースでは、暴走と解さざるを得ない常識破りの戦法だった。それでも、そんな逃げ馬の粘りがゴールまで持続したのは、不良の発表まで渋化していたダートコースのアシストがあったからこそだろう。冬のダートといえば、力の要る重い馬場状態が通り相場だが、ひと雨降って脚抜きの良い状態になってしまえば、パワーよりもスピードの絶対値が優先される。そんなダート競馬の定説は、どうやら2月の府中でも健在と言えそうだ。

それでは、ひと雨降れば逃げ馬天国になるのか?と問われれば、そう単純なものでもない。コース改修後(03年以降)の東京ダート・千六のレースについて、出走馬の能力が近接しておりサンプル数も多い1000下条件を対象に、馬場状態別に脚質による成績傾向を調べてみると、結果は次の通りとなる。良馬場の場合と、稍重~重の場合で、逃げ馬の連対率そのものに殆ど違いはないのだ

■東京ダート千六(1000万下)脚質別成績傾向 良馬場の場合
Tokyo_dirt_1600_kyakusitu_ryoubaba_1




■東京ダート千六(1000万下)脚質別成績傾向 稍重~重馬場の場合
Tokyo_dirt_1600_kyakusitu_mitiwaru_1




(※)「不良」発表のレースも2件があったが、うち1レース(03年日吉特別)は決着時計が1分39秒台と異様に遅く、特殊なペース・馬場状態であった可能性もあるため、集計対象から除外した。

このデータで、もう一つ注目すべきところは、右端に表示されている「単適回値」という数値。正確には「単勝適正回収値」というのだが、競馬データベースの定番「TARGET frontier JV」の最近のバージョンから表示されるようになった項目である。簡単にいうと、「単勝回収値」「複勝複回値」の欠点として指摘されてきた、高配当の馬が何頭か勝って回収値を大きく跳ね上げてしまうバイアスを補正し、オッズに見合うウエイトで適正な値を評価し直した指数と理解すればよい。
で、その数値をあらためて眺めてみると、良馬場でも、稍重・重馬場でも、ほとんど数値に変化が表れていないことがわかる。逃げ馬の回収値は、馬場状態の如何を問わず、140前後で安定。この事実に注目するなら、雨が降っているから「逃げ馬を狙え」という馬券作戦は必ずしも定説とは言えない。一方、渋った馬場での「差し」の回収値も、 75前後の水準をキープしているわけだから、敢えて差し馬から買ってみるという作戦の有効性も否定しきれないだろう。ちょっと意外な感じがするけれど、脚抜きの良い馬場=前が止まらない馬場という先入観は、捨ててかかった方がいいと言えるのかもしれない。

雨馬場でのレースの行方を占ううえで、脚質が最重要ポイントではないとなると、それに代わるファクターとはいったい何だろう?そう思いつつ、あれこれと考えを巡らしてみたのだが、結局たどりついたのは「スピード」というキーワードである。
前述1000万下のレースをサンプルにして集計してみると、良の平均決着タイムが 1分37秒9なのに対して、稍重~不良では1分37秒フラット。およそ1秒ほど時計が速くなっている。現役のトップクラスが顔を揃えるG1レースとなれば、要求されるタイムの水準はこれより2秒以上は速くなるわけで、脚抜きの良いダートなら1分34秒台の決着に耐えるスピード能力が必要とされることだろう。
ここまで時計が速くなってしまうと、さすがにパワー一辺倒のダート路線専用馬では苦しく、芝のレースでもそれなりに好戦できる軽快なスピードを兼ね備えたタイプこそが狙い目になってきそう。上位候補を絞り込むうえでは、各馬の芝のレースにおける戦績にも注意を払っておきたい。

<結論>
◎ブルーコンコルド
○シーキングザダイヤ
▲メイショウトウコン
△メイショウバトラー
△サンライズバッカス
注リミットレスビッド
注ダイワバンディット

Seeking_the_dia_at_nambuhai06_1芝でも通用するほどのスピードというポイントに目するなら、過去に芝重賞を制した実績に当然敬意を払っておくべき。今は昔2~3歳時の出来事とはいえ、ブルーコンコルド(京王杯2歳S優勝)シーキングザダイヤ(ニュージーランドT・アーリントンC優勝)の若き日の勲章は、早くから非凡なスピードを開花させてきた事実の証であり、ダート路線での活躍を支える隠し味と言えるのかもしれない。昨年は後者が先着しているが、昨秋の南部杯以降、両雄の力関係は完全に逆転。距離不安を克服したブルーコンコルドの充実ぶりを素直に評価して本命に指名する。
平安Sを勝ち上がってきたメイショウトウコンも、その出自をたどれば昨年春まで芝路線を走っていた馬。勝利数こそ未勝利戦の1勝だけだが、500万下で差のないレースを演じていたことから、ダート専属のパワータイプと決めつけるのは早計だろう。昨秋には雨で高速化した花園Sを鮮やかに差しきった実績もあり、脚抜きよい馬場状態への適正も既に証明済みだ。
以下では、芝の重賞でもそれなりの実績を残してきたメイショウバトラーリミットレスビッドダイワバンディットをピックアップ。サンライズバッカスも、カネヒキリを負かした3歳時の武蔵野S(良馬場)で1分35秒2の持ち時計があり、高速ダートなら34秒台の争いに対応できるとジャッジしたい。

キルトクールは、前代未聞=豪華2頭出しに挑戦。
パワー一辺倒のダート路線専用馬といえば、アジュディミツオー。必ずしも「にげうま」有利といえない雨の府中コースだが、今回は苦手の芝スタートで、自分の形に持ち込めるかどうかが懸念される。
一方、芝でも通用するスピードが必要とはいっても、芝でしか走ったことがないタイプがG1でダート初挑戦というのも好走例が少ないパターン。今年これに該当するのがオレハマッテルゼだ。そもそもこの馬、芝でも緩急の少ないペースに対応できない。ダート競走特有の緩みない流れで好走できると判断できる材料が、どこにも見あたらず、今回ばかりは無謀な挑戦と言わざるを得ないだろう。

2月 18, 2007 07年競馬予想・回顧 | | コメント (0) | トラックバック (10)

2007/02/13

「GO-ONE」と書いて「豪腕」!

408746123801_aa240_sclzzzzzzz_競走馬とそれを取り巻く人々の息遣いがリアルに伝わってくるような臨場感にあふれた傑作小説「ジョッキー」。その著者・松樹剛史氏の手よる待望の競馬青春小説・第2弾が発売された。
新作に与えられた題名は「GO-ONE」と書いて「豪腕」・・・・そんなふうに読ませるタイトルからも想像できるように、今度の主人公は、地方競馬所属ながら腕っ節の強さと追える技術で、次々と勝利を積み重ねる若手騎手(日下部一輝)という設定だ。
地方所属の若手騎手という先入観もあって、主人公のモデルは金沢競馬の吉原寛人とか、岩手の村松学あたりだろうか?とも考えたが、本作の豪腕の持ち主、ああいうスマートなイケメン系ジョッキーとは、ちょっとイメージが違う。自分の腕と意志だけで「どんな馬に乗っても勝つ」と豪語する傍若無人な性格。肘を曲げると巌のような力こぶが隆起するボディービルダー顔負けの体形。少々能力が足りない競走馬だろうと何だろうと、力まかせに先頭にもっていき、そこから手綱やムチだけではなく拍車まで繰り出して、脚が上がった馬を追いまくる強引さ。物語のなかで描かれるそのようなエピソードから浮かんでくる風貌は、どちらかといえばJRAの田中剛を20年ほど若返らせたようなゴッツイ頑固者といったところだ。肉体美と腕力・技量だけなら、大井の至宝・ポパイ内田博を連想する自由も読者には許されているが、おそらくこの小説の主人公は、あんなジェントルマンじゃない。
物語は、その豪腕騎手・日下部一輝を中心に、彼の活躍の場である「春名競馬」の厩務員(主人公の妹)と、遠征先のJRAに所属している二人の若手騎手が語り部となって、群像劇の形式で進行する。

地方競馬が舞台の小説となれば、赤字による存廃問題であるとか、外厩制度の導入であるとか、この世界を賑わすリアルタイムな話題も、避けては通れない。実際、本書に登場する競走馬のなかには、80戦勝の連敗記録を更新し続け世間の耳目を集めるハルウララもどきや、外厩からJRA競馬に挑戦を続ける地方の怪物(コスモバルク?)を彷彿とさせる馬もいて、彼らにまつわるエピソードを絡めつつ、中央・地方の特殊な二重構造に起因する日本競馬の「現在」をあぶり出しにしようという、著者の試みが読み取れる。競馬といえば、JRAのG1・重賞レースぐらいにしか興味を持たないライトな読者層には、ちょっと馴染みのない競馬界のディープな一面。それを小説というジャンルで世に知らしめようとした筆者の意気込みは買える。
だが、惜しむらくは、わずか200頁強のボリュームにあまりにも多くのエピソードを詰め込みすぎてしまい、消化不良の印象を与えてしまう箇所が散見されるところだ。巻末の主要参考文献には、「殴る騎手」「崖っぷちジョッキー」といった騎手関係の読み物や、藤沢和雄調教師の「競走馬私論」など、競馬サークルの内情を知るうえでは定番というべき書物の名が列挙されているけれど、これらの資料から吸収した知見をもう少し再構成して、洗練した形で読者の前に提示して欲しかった。登場人物たちが、やたらと「ハッピーピープル・メイク・ハッピーホース!」と連呼する場面などは、すでに藤沢師の著書を一読しているコアな競馬ファンからすると、ちょっと気恥ずかしくなってしまうところだ。

とはいえ、この著者の持ち味であるレースシーンの迫真の描写は、前作に続いて、ここでもたっぷりと堪能することができる。特に、物語の中盤で描かれるJRAの女性騎手(競馬学校を首席で卒業し、アイルランド大使賞を受賞した誇り高きアスリートという設定)と主人公による、意地と意地がぶつかり合う追い比べなどは、スポーツ小説の醍醐味と評するに相応しい名場面というべきだろう。
ちょっとコミカルな印象を漂わす主人公の言動の背景に、誰にも言えないトラウマが横たわっていたという小説の基本的骨格は、前作「スポーツドクター」とも共通する構成。良い意味で読者を裏切らないスポーツ青春小説の良作として、誰が呼んでも楽しめる作品に仕上がっていると思う。次作への期待も込めて、当ブログのお薦め小説として紹介してみたい。

2月 13, 2007 書籍・雑誌 | | コメント (0) | トラックバック (2)

2007/02/11

【ダイヤモンドS】距離・スタミナのロスを最小限に

Turkey_on_her_debut_raceJRAの平地競走では、ステイヤーズS(G2・中山3600・別定)に次ぐ長い距離で争われるハンデ重賞。だが、天皇賞(春)へと続く重厚な長距離戦というムードは意外と薄く、どちらかといえば軽薄短小なハンデ戦らしい傾向が強く表れているように思える。府中コース改修以降、1番人気の支持を集めた実績馬たちは、いずれも4着以下と馬券圏外に消え去っており、過去3年間の馬連平均配当は約70倍という数字。人気馬の苦戦・伏兵の台頭というレースの性格は、ユーセイトップランとジョーヤマトによる波乱のワンツー決着が懐かしいコース改修以前(芝3200の条件で施行)から、あまり変わっていない。
前走・1000万下の条件戦で敗退していた馬(ウイングランツ)だろうと、ハンデ50キロの牝馬(メジロトンキニーズ)だろうと、適性さえあれば平然と上位に突っ込んでくるようなレースだけに、伏兵選びもいったい何をポイントにすればよいのか?判断に迷う。だが、近年のレースで目立っているのは、4コーナーで比較的内目のコース取りを選択した差し馬が、必ず1頭は連に絡んでいるということ。Dコースの大回り条件といえど、コーナーを合計6回も通過する条件だけに、外・外を回していく距離ロスはけっして小さくない。距離の無駄を最小限に防ぐコース取りを意識したほうが、当然有利であることは論を待たない。
さらには、距離3400の長丁場でスタミナの消耗も最小限に抑えるという意味では、道中漫然と先行していくタイプよりも、中団のインで折り合って脚を溜め、勝負どころから一気に抜け出せる決め手と器用さをもつタイプが有利。一昨年のハイフレンドトライ(2着)や、昨年のマッキーマックス(1着)の戦法を再現できそうなタイプを探してみることが、馬券作戦のポイントになりそうだ。

【結論】
◎ターキー
○トウカイトリック
▲バイロイト
△アドマイヤフジ
注チャクラ
注エリモエクスパイア
注チェストウイング
注グラスポジション

内目のコース取り」というキーワードからは、トウカイトリック・バイロイトの人気2頭が枠順込みでそれぞれ有力だろう。長距離戦での実績を重視するなら、万葉ステークス1着・2着の再現を期待して、この2頭を主軸に据えた馬券作戦というのも当然有りうる。だが、一方で上位人気の重ハンデ馬苦戦というレースの傾向を踏まえるなら、そう簡単に決着しそうもないのでは?という予感も働く。
そこで思わず食指が動くのが、10月の未勝利戦から1000万下特別まで一気に3連勝で駆け上がってきた遅咲きの良血・ターキー。前走・グッドラックHでは、直線ラチ沿いの狭いところを割ってゴール前一気に抜け出す味な競馬を見せていた。鞍上は、当時の吉田豊から江田照にスイッチされるが、この乗り替わり、インに拘るコース取りという点では、悪くない選択と解釈できる。血統背景からスタミナの裏づけも十分で、安全運転に徹した人気どころをアッと言わせるような鮮烈な競馬を期待してみたい。伏兵を中心視するのだから、相手候補はとりあえず上記7頭。少々手広く馬券を買ってみてはも、配当的には十分ペイするはずだ。
キルトクールは、ドリームパートナー。東京巧者のイメージが強いけれど、この馬の場合、外を回して届くかどうかが毎度の焦点。準オープンの身でハンデ54キロというのも微妙な気がして、今回は差して届かずの結果に終わるリスクが高そう。

2月 11, 2007 07年競馬予想・回顧 | | コメント (0) | トラックバック (5)

2007/02/04

イグJRA馬事文化賞!「競馬ワンダラー」

Keiba_wanderer喜び・悲しみ・切なさ・そして笑い・・・・「あなただけのJRA賞」を選出するイグJRA賞のトラックバック締切まで、まだ少し時間があるようなので、当ブログからも清き1票を投じてみよう。
俺たちは語り始める。ひどい、ひどい笑い話を」というちょっとネジくれた賞の趣旨に沿っているかどうか自信はないけど、栄えある馬事文化賞の候補として是非ともエントリーしておきたいのが、グリーンチャンネルで4月~6月の3か月間放映されていた異色の競馬ドキュメント「競馬ワンダラー」である。

昨年(05年)12月に8年間勤めた競馬中継の現場を去った浅野靖典。「競馬の良き語り部でありたい」と願う彼は、「全国縦断・競馬関係施設巡り」という前人未踏の旅に出る。この番組は波乱に満ちた彼の旅を追う壮大なドキュメンタリーである。ちなみに「ワンダラー(wanderer)とは「彷徨い人」の意味。
~「競馬ワンダラー」番組紹介のテロップから引用~

元中央競馬中継キャスターの浅野靖典氏を案内役に、北は北海道から南は九州・鹿児島まで。全国津々浦々の牧場や、馬券を愛してやまない熱血オヤジたちが集う競馬場の現場、さらには今では失われてしまったなき歴史的競馬場の遺構まで。福岡ナンバーのおんぼろ中古ワゴン車・ワンダラー号が旅を続けるロードムービー風のドキュメント番組である。アシスタントが差し出すラッキーボックスから無作為に選び出すピンポン球次第で、明日の行く先が決まるという行き当たりばったりの演出も楽しく、釧路→帯広→鵡川(ししゃもの街)→室蘭→盛岡→水沢→上山→仙台→船橋・・・・と、浅野氏の旅は続く。バックに流れるはっぴいえんどの名曲「風をあつめて」も、レイドバックした番組の雰囲気づくりに一役買っていたと思う。
目先の視聴率競争ばかりに一喜一憂する地上波では絶対に実現不可能だった、知的で、センチメンタルで、マニアックな企画。ありそうであり得なかったこんな番組を世に送り出してくれた浅野氏と製作スタッフの心意気こそは、06年の競馬をめぐる出来事を語るうえで馬事文化賞の栄誉に値する快挙というべきだろう。

だが、これほどの良作が、本家JRAの馬事文化賞で取り上げられなかったことには、それなりの理由もありそう。この番組における玉に瑕というべきか? 放送中から不評をかこっていたのが、「番組を影で操る委員会」という触れ込みで毎度挿入されていたルーシー(お笑い芸人?)とまなか(元アイドル?)による意味不明の騒々しい掛け合いギミックだ。わずか30分の時間枠と限られた製作予算からすると、あれはどう考えても蛇足以外の何物でもなかったように思えるのだが、どうなんだろう?

そんな欠点はあれど、知る人ぞ知る競馬絡みの名所旧跡(ばんえい競馬場の業務用トロッコ列車、中京・京阪神のソウルフードが集結する笠松競馬場の食べ物事情、はたまた土佐黒潮牧場で余生を過ごす初代黒潮賞の勝馬リバーセキトバなどなど)を次々とテレビ画面に登場させてくれたこの番組の功績は、素晴らしいのひと言に尽きる。ブラウン管に映るそんな風景を目にしていると、ついつい旅打ちの虫が騒いでしまう。自分もワンダラーになりたい!そんな気分にふと動かされてしまうのは、馬券オヤジの自分だけではないはずだ。

今年のお正月からは、チャンネルをかえてmondo21での再放送が好評を博しているこの名作。本家グリーンチャンネルでも2月26日(月)23:00~24:00には、スペシャル企画「競馬ワンダラー ~ ばんえいに恋して」 の放映が予定されているようだ。まだ視ていないよ!という方には、是非ともお薦めしてみたい。

2月 4, 2007 日記・コラム・つぶやき | | コメント (0) | トラックバック (1)

【共同通信杯】府中千八 敢えて展開を重視してみる

Fusaichi_ho_o_at_2006_tokyo_sports_hai府中の千八、展開要らず」とは、かつて競馬評論家として活躍していた大橋巨泉氏による名言だが、ここまで3日間の日程を消化してきた府中冬開催の芝・中距離路線、特に距離千八のレースを振り返ってみると、思わず「なるほど」と唸らされてしまう。逃げ・先行勢の上位独占による波乱(2日目・早春S)もあれば、満を持して後方から末脚を爆発させた差し馬の台頭もあり(3日目・立春賞)。枠順や脚質による有利・不利がほとんど感じられないのだ。
もし雨でも降って馬場が渋るようなら、例のトラックバイアスの影響を一考したいところだが、幸か不幸か今週末の東京地方は、土日を通じ好天の予報が報じられている。日曜日の競馬も、フェアなコンディションのもとでの力比べを前提に予想を組み立てていくのが筋だろう。
そんな府中の芝・千八コースを舞台に明け3歳の若駒たちが覇を競う共同通信杯も、「展開要らず」の例外ではない。コース改修後、過去3年の上位馬の脚質傾向は、ストーミーカフェの逃走劇から、マイネルデュプレ・アドマイヤムーンによる差し切り勝ちなど展開多様。レースのサンプル数が少ないこともあるけれど、まだ一定の傾向には収束していないようだ。
ただし、各年のレースに共通するポイントはある。春まだ浅いこの時季に行われるクラシック前哨戦という位置づけのためか?毎年10頭前後の少頭数で、競馬が行われているという事実である。「府中芝・千八」「少頭数」という2つのキーワードから、浮かび上がってくる傾向と対策を明らかにするため、東京競馬場のコース改修が行われた03年以降のレースデータを洗い直してみよう。

出走馬10頭以下のレースにおける脚質別成績を検索してみると、結果は以下のとおり。新馬・未勝利戦などで見られる出走馬の能力差に起因したバイアスを排除するため、特別戦以上の上級条件に対象を絞ってみた。すると、連対率こそ逃げ馬が最高値をマークしているが、単勝回収値・複勝回収値の数字をみるかぎり、先行・差し・追込を問わず、どんな脚質の馬でも一応狙えることがわかる。常識的には前有利と思われる少頭数の芝中距離戦で、道中後方に位置していた追込馬がここまで健闘しているとは、正直、想定外の事実だった。

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だが、さらに詳しく調べてみると、一見ニュートラルなこの傾向は、レースのペース如何によって、大きくその結果を異にすることがわかってきた。
分水嶺というべきポイントは、前半1000メートルの通過タイム=61秒である。後方からの追込馬による勝ち鞍は、前半61秒未満のミドル~ハイペースになった場合にほぼ限定されるのだ。前半戦で61秒を超えるゆったりとしたスローペースに流れが落ち着いてしまうと、前が止まらない分、差し・追込苦戦の傾向が明確になってくる。単勝回収値がこれ程までに低いということは、人気の差し・追込馬を切るための根拠として、それなりに有効な材料と判断せざるを得ない。
過去3年の共同通信杯の結果は、必ずしもこの傾向と一致していないとはいえ、府中芝千八に本来備わっている特質として、スローペースでの差し・追込馬不発というポイントは是非ともチェックしておきたい。

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さて、そんな傾向と対策を念頭に置いて、あらためて今年の出走表を見渡してみると、何が何でも行きたい典型的な逃げ馬が1頭も見あたらない。先手を主張する可能性が残るのは、内枠からフリオーソ(内田博) インパーフェクト(御神本) フライングアップル(岩田)といったところだろうか?これらの各馬、今ではJRA所属となった岩田康誠も含め、地方で鳴らした名手たちが手綱を取るという点で共通項があるのが興味深い。だが、各馬がお互いの出方を探り合うなかでは、さすがに前半1000メートルで61秒を切るほどのペースが出現する可能性は少ないとみるべきだろう。となると、スローペースの前残り?!・・・・「展開要らず」の格言からすると、ちょっと邪道といえそうな展開予想だが、押し出され気味に先行した逃げ馬が残ってしまう可能性まで含め、検討の遡上に載せておく必要はあるだろう。

<結論>
◎フサイチホウオー
○フライングアップル
▲フリオーソ
△ニュービギニング
注ダイレクトキャッチ
注マイネルブリアー

有馬記念当日のホープフルSで、武豊に「今日はちょっと跳びましたね」と言わしめた小型ディープインパクト=ニュービギニングの取捨がポイント。デビュー2戦目にして、早くも偉大な兄の足跡をなぞるような勝ちっぷりを示した素質の高さは評価に値するが、その前走では前半から忙しくなって、前が崩れる展開にも恵まれていた。対照的に今回は少頭数で「スローペース」が濃厚な一戦。後方から全馬を差しきって見せても、まったく驚けないが、馬券的にはできる限り軽視してみるのが定石だろう。

これに対し、ここまで3戦3勝のフサイチホウオーは、毎度2着馬との着差が僅かだが、説得力に溢れた勝ちっぷりが光る。過去3戦がいずれも中距離戦で前半61秒を超えるスローペース。そんな条件で常に高いパフォーマンスを示し続けていることは、やはりここでも評価せざるを得ない。
以下では、逃げの手に出る可能性を残すフライングアップルとフリオーソに注目してみる。全日本2歳優駿を制し、ダート界の同世代トップに君臨する後者は、血統・馬体の印象から芝でもそれなりの能力を発揮できるとジャッジした。

キルトクールは、地方所属馬ながら意欲のJRA挑戦を続けるインパーフェクト。こちらは小型コスモバルクとでもいうべきキャラクターだが、折り合いに課題を残し「中団から脚を溜める」と陣営が公言している現況は、スローペースで減点材料と言えそうだ。

2月 4, 2007 07年競馬予想・回顧 | | コメント (0) | トラックバック (6)