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2006/01/20

「サイマー!」 筋金入りの馬券オヤジ、かく語りき

4087478912菊池寛、山口瞳、宮本輝に高橋源一郎・・・・競馬が大好きで、実際に競馬を素材にした作品を残している著名作家は多いが、現役でその筆頭格にあげられるのは、やはり浅田次郎氏だろう。
競馬歴30年以上。現在も東京競馬場のスタンドを間近に望む場所に居を構え、直木賞を受賞する直前まで四半世紀の間、ほぼ毎週休むことなく競馬場のスタンドに通い詰めていたという。流行作家になった現在は、さすがにかつてのペースで競馬場通いを続けるのは難しいのでは?と想像するのだが、それでも昨年の南部杯当日には、ゲストとして盛岡競馬場に登場するなど、いまだ馬券に関してはバリバリの現役である。「パドック重視」「レート厳守」など、長年のキャリアのなかで培ってきた馬券のスタイルをしっかりと持っているのも魅力で、まさしく筋金入りの馬券オヤジである。

サイマー!」は、その浅田氏が5年前に発表した競馬エッセイ集の文庫化したもの。
競馬ものといっても、主に馬券とのつきあい方をテーマに取り上げた幻冬舎アウトロー文庫の著作とは異なり、こちらは著者による全国・世界の競馬場巡りの記録といった趣だ。登場する競馬場は、地元・府中に始まり、なぜか小倉を除くJRA全競馬場。海外では、凱旋門賞の舞台となるロンシャン競馬場に始まりシャンティイの森香港・沙田、米国は東海岸のアケダクトケンタッキー・チャーチルダウンズドバイアスコットと、超ハードスケジュールに揉まれながら著者の旅が続く。国内、特にローカル旅打ちの部はまったりと、それとは対照的に海外競馬編では、現場ならではの臨場感を、巧みな筆致で見事に料理してみせるあたりが、本書の醍醐味だろう。

内容そのものは、適度な脱力感を漂わす肩のこらないエッセイである。文庫本の帯にある宣伝文句のように「読めば勇気と希望がわいてくる」というほどの力作とは思えないし、あるいは熟読すれば収支の向上が約束されるような馬券必勝本とも違う。だが、そこかしこに競馬歴30年のオヤジならではのウンチク・こだわりが散りばめられており、そのあたりが、やはり興味深い。

たとえば、「都市の中の異界である競馬場で、日常と同じ金銭感覚を維持している者のみが勝者たる資格を持つ」であるとか、「道を発見し、努力を惜しまぬ決意さえできれば、遊びはすべて人生にとって有効なものに姿を変える」とか、あるいは「いかに『運』を掴み、いかに少しでも長い間それを手の内に留めおくか。そのためには一に努力、二に才能、三に忍耐、すなわち『運』の存在を認めぬことこそが、『運』を支配する唯一の方法なのである」とか。ひょっとしたら、若い読者にとっては、このへんちょっと煙たく感じられるところなのかもしれない。
だが、命の次に大切なお金をやり取りする「遊び」を長く続けていくための教訓としてなら、素直に受けとめる価値はあると思う。なにせ30年に渡る苦闘のすえに、ロンシャンのパドックでシェイク・ムハンマド殿下と握手できるまでのステータスを手に入れた浅田氏が、身をもって体得した競馬とのつきあい方のエッセンスを吐露しているのである。うらやましく感じつつも、その数十分の一でいいから、ちょっとした覚悟をもって週末の競馬場に足を運んでみようかな?と、考える良いキッカケを与えてくれる。

また、もう一つ本書の美点をあげるなら、文庫本サイズながら写真家・久保吉輝氏の手による豪華なカラーグラビアが巻頭についていることだ。これが思いのほか秀逸で、浅田氏の文章と共鳴しながら、世界各地の競馬場のリアルな雰囲気をよく伝えている。「写真+紀行文」という構成は、開高健の「オーパ!」シリーズとも通じる雰囲気を感じさせるが、ひょっとしたら浅田氏もそんな路線を意識しているのかもしれない。
その久保氏撮影のグラビア。筆者が後書きで触れたサイレンススズカが天皇賞本場場に入場してきた時の一瞬の表情を捉えた「遺影」も良いが、個人的に言わせてもらうなら、キングジョージを勝利した直後?のデイラミとデットーリの勇姿を正面から撮った一枚がまた印象深い。ぬけるような夏空をバックに、馬上から観衆を見上げる同色の勝負服。「どうだ!」と言わんばかりの騎手の表情とは対照的に、堂々たる貫禄を漂わせる芦毛の優勝馬の涼しげな目元。デイラミの手綱を取りながら、サングラス越しに両者に鋭い視線を送るゴドルフィンのスタッフの姿もクールで、世界の競馬の懐の深さを、たった一枚の写真に凝縮したかのような傑作だと思う。

ところで、集英社文庫のサイトでは、「サイマー!」のさわりの部分を立ち読みすることができる粋なサービスを実施中である。とりあえず雰囲気だけでも試してみようかという方には、お薦めできます。

1月 20, 2006 書籍・雑誌 |

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今日は、友人に会いにで仙台へと行ってきました。いつもは自家用車を運転していくの 続きを読む

受信: 2006/02/20 0:56:19

コメント

はじめまして

いつも楽しく拝見させてもらっています。
「サイマー」ですが、私も持っていますが、ホントいろんな意味で興味深い一冊ですよね。
何度も読み返していますが、そのたびに新しい発見や、前とは違った見方が出来たりと、手放せない1冊です。

いつか自分も合言葉を言ってみたいものです。
格好いいぜ!浅田さん。

投稿: しみず | 2006/01/20 12:38:19

しみずさん、はじめまして (^^)/

>格好いいぜ!浅田さん。

グラビアで見ることができる浅田氏のファッションセンスがまた素晴らしいですね。海外競馬でネクタイ着用といっても、双眼鏡にレープロ、おそらく赤ペンもどこかに忍ばせているはずです。馬券オヤジの理想型とでもいうべき服装だと思います。

これに影響され、私も一張羅のコート(競馬場用)を思わず新調してしまいました。

投稿: 山城守 | 2006/01/22 0:51:00

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