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2005/12/21

「さおだけ屋」はなぜ活字中毒者に受けないのか

約1年前に東京に転勤し、京王線で電車通勤の日々を送るようになってから、激増したものがある。読書の時間だ。
もともと自分の場合、ちょっと手持ち無沙汰の時間があれば、ぼんやりとしているよりも、本や新聞に目を落としていたいクチであり、活字中毒を自覚している。そう、字さえ書いてあるものなら、スポーツ新聞のエッチ欄だろうと、チラシ広告だろうと、基本的には何でもOKなのだ。そんなわけだがら、毎日往復2時間の電車のなかで、じっとつり革に掴まっていたり、寝たふりをきめこんして、無為に過ごすことなど考えられない。週刊競馬ブックの月曜日と、週末の日刊紙をチェックしている金曜日の帰路、さらには酔っぱらってしまい本当に爆睡しているときなどを除けば、できる限り車中では、書籍化された活字を貪り続けてきたつもりだ。
とはいえ、ラッシュアワーの只中で大ぶりのハードカバーの頁をめくり続けるほどマナー知らずではないし、仕事帰りのリラックスタイムに肩のこるような書物と格闘するのも勘弁してほしい。そんなわけで、わが読書生活は、文庫化された軽めの小説などという至極ありきたりな路線が、その中心を占めることになってしまった。

だが、活字中毒者は、大きめの活字で組まれたスカスカの書物が苦手である。往々にして、そんな本は、取っつきやすそうにみえても、内容のほうもスカスカということ多く、手応えが感じられないことを経験的に知っているからだ。このような書物が、活字中毒者のどん欲な欲求を埋め合わせてくれるとは、到底言い難い。

4334032915たとえば、今年のベストセラーとして評判になった「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(光文社新書)という公認会計士の書いた本がある。飲み会の割り勘や、2着で満足する麻雀打ちという身近なエピソードから説き起こして、初心者にわかりやく会計の世界をガイダンスしようというコンセプトの入門書なのだが、そんなうたい文句や会計本らしからぬネーミングが受けて、いまだ売れに売れているようだ。
けれど、あの本を手に取った自分がまず感じてしまったのは、新書版にしては異様に活字のポイント数がでかいという特徴である。
実際に数えてみたら、1頁あたりの行数は14行しかなかった。これは一般の新書に比べると2行ほど少ない数字である。1行あたりの字数も38字で組まれており、結局、頁あたりの情報量は普通の新書の8割程度に抑えられている。この密度の薄さこそ、「数字嫌いでもすらすら読める会計書」を標榜するこの本の真骨頂なのだろうが、頁を開いていくと活字の黒さよりも、余白部分の真っ白さのほうが目立ってしまうほどだ。

そのうえさらに、筆者は前書きで「むずかしいところは読み飛ばしてください」とか、「最後まで読み切っていただくために・・・・くだらない話もたくさん盛り込んでいます」とか優しく読者に語りかけてくる。けれど、これだけ密度を希釈したような本を読み飛ばしたりして、ほんとうに内容を理解できるの?という気がする。

で、活字中毒者の自分にとっては、やっぱりこの手の本の軽さがダメだったのである。まあ、話の種にでもと・・・・読み始めたまではよかったが、結局、途中で飽きがきてしまい、読了しないまま投げ出してしまった。「さおだけ屋が潰れない理由」は飲み込めたけれど、とりあえずの収穫はそれだけ。自分にとって、世間の話題を集めるこの本が、会計世界への誘いとなることはなかった。この本を通じ「あなたと会計が出会うことによって、新しい何かが生まれたら」と願い、執筆した筆者には申し訳ないけれど、それが事実である。

電車のなかで読むお手軽な一冊といえど、書物である以上、やはりそれなりの手応えはほしいと思う。ここでいう手応えとは、①書店で本を手にしたときのわくわくするような期待度、②実際に読み始めてからの吸引力(次の頁をめくって読み進めたいと思わせる文章の力)、さらには、③読了時に感じるずっしりとした余韻のバランスのうえに成り立つ、書物の魅力のことだ。「さおだけ屋」を例にとっていうなら、①は満点だが、②と③がいかにも弱いという印象を禁じ得なかった。本を売る出版者や書店の側に立っていうなら、とりあえず①が強い本ならベストセラーになる可能性が高いので、それでいいじゃないかという見方もあるのだろうが、コアな活字中毒者にとっては、②③がなくちゃ、アイ・キャン・ゲット・ノー・サティスファクションなのだ。

さて、実はこのエントリ、自分にとっての今年のブック・オブ・ザイヤーを発表するための前ふりとして書き始めたのだが、思いのほか長文になってしまった。そんなわけで本題は、次の稿に譲ることにしたいのだが、最後にその予告編を兼ね、最後に雑誌ダ・ヴィンチが発表した「5236人の本好きが選んだブックオブザイヤー・ベスト10」を紹介してみたい。はたして、このなかに活字中毒者の飽くなき欲求を満たしてくれる良書が何冊含まれているのだろうか?興味津々である。
ちなみに、これらのうち自分が読了したのは、第7位第10位にランクインしている作品だ。これらは、当ブログでも、以前ネタとして取り上げたことがある。とはいえ結局、「電車男」には縁が無い1年だったと思うと、ちょっと感慨深い。

■5236人の本好きが選んだブックオブザイヤーベスト10■
  第1位 電車男(中野独人)
  第2位 東京タワー(リリー・フランキー)
  第3位 NANA(矢沢あい)
  第4位 さおだけ屋はなぜ潰れないのか?(山田真哉)
  第5位 半島を出でよ(村上龍)
  第6位 鋼の錬金術師(荒川弘)
  第7位 バッテリー(あさのあつこ)
  第8位 ハチミツとクローバー(羽海野チカ)
  第9位 のだめカンタービレ(二ノ宮知子)
  第10位 東京奇譚集(村上春樹)
    ~雑誌ダ・ヴィンチ
      ブック・オブ・ザ・イヤー総合ランキングより引用  

12月 21, 2005 書籍・雑誌 |

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コメント

こんばんは。
僕も「さおだけ屋…」買いました。
一応現役の経済学部の大学生ってことで会計学もちょうど履修してたし読んでみたんですが、確かに活字中毒の方には物足りない感じでしょうね。。入門書の入門書ってな内容でしたし。活字の少なさも若者にとりあえず目を通しやすくってのが目的でしょうか。

あとは活字中毒の話とはちょっとずれますけど著者の方が若い(確か28歳?)ってのも原因じゃないですかね。20歳で芥川賞とった人の「蹴りたい背中」って読まれたことありますか?僕はその人と同い年になるんですけど、物事の例え方とか表現の仕方がすごくわかりやすくてスラスラ読めて内容も頭にスッと入るぐらい読みやすかったんですが、この本は年配の方には受け入れられてないんですよね。自分より世代が下の人の作品ってやっぱある種の偏見っていか、認めずらい部分があるんじゃないですかね。自分より下の世代の人の本を読む機会はまだ先なので(笑)あくまで想像の世界ですが。。

ちなみにお口に合うかどうかはわかりませんがおススメは「24」です。手応えの②は確実に満たされますよ^^

投稿: Jr. | 2005/12/21 2:14:33

1はブームになる前にまとめサイトで、他に2,3,4,6、8,9は読みましたねー。さおだけ屋は僕の周りでも不評でしたねー。正直名前負けしてるのが一番の原因だと思います。ツカミはオッケーなのに中身が微妙というのが読後感の?感につながるのかと。

つーか本好きが選んだベスト10にマンガが4冊(しかもいまさらハガレン・・・)入るランキングはそもそも微妙としかいいようがないかと。いや僕も相当マンガ読みますけどねえ。

投稿: ゆたゆた | 2005/12/21 2:30:18

>Jr.さん

同世代作家の物事の例え方とか表現の仕方がすごくわかりやすく・・・・確かにそうだなあと思います。
196×年生まれのオヤジ世代の場合、奥田英朗とか、角田光代などの感性には、時としてとても他人とは思えぬほど共感しますが、伊坂幸太郎になるとちょっと・・・という感じがします(汗) 「蹴りたい背中」・・・・恥ずかしながらまだ未読です。去年かなり話題を集めた作品ですね。そろそろ読んでみようかと思います。

>ゆたゆたさん

確かに相当なマンガ読みとお見受けしました(笑)
「さおだけ屋」 ツカミはオッケーなのに中身が微妙・・・・入門書のコンセプトとしては決して悪くなかったと思うのですが、それだけにもう少し「ううむ」と唸らせてほしかったな。

投稿: 山城守 | 2005/12/23 2:23:13

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