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2005/10/20

「神様」を味方につけるコツ

a_book_and_some_disks村上春樹の最新短編「東京奇譚集」の冒頭に、ちょっと面白いエピソードが書かれている。筆者が、まだ米国に在住していた頃、ジャズ・クラブにトミー・フラナガンのピアノ演奏を聴きに行ったときのお話である。
率直にいってその日の演奏はパッとしないものだった。時間が経過するうちに聴く側も「このままで終わって欲しくはないな」と焦りに近い気持ちが強くなり、筆者も「もし今、トミー・フラナガンに二曲リクエストする権利が自分に与えられたら、どんな曲を選ぶだろう?」などと、思いを巡らしていく。だが、脳裏に浮かんできたのは、二曲ともあまりポピュラーとはいえない「渋い」選曲だった。リクエストが受けつけられたわけでもなく、こんな曲を今夜取り上げてくれる確率など天文学的な数字だろうと諦めかけていると、突然フラナガン氏は何も言わず、その二曲を立て続けに演奏し出したというのだ。しかも、実にチャーミングな素晴らしい演奏で!

このように第三者からみれば、取るに足らない偶然でも、当事者にとっては、ある種の不思議さに打たれる出来事というのが確かにある。けっしてオカルト的ではないけれど、人生に彩りを添える不可思議な現象・・・・そんな体験をしたとき、村上は「ジャズの神様みたいなのがいるのかもしれないな」とぼんやり考えるのだという。なるほど、「神様」とは言い得て妙である。
実は、自分も最近これと似たような体験をしている。
それもやはりジャスがらみのお話だ。

深夜だらだらと夜更かしをしながら、自宅で芋焼酎のグラスを傾ける。ブログの更新をする意欲も湧かず、さりとて床につく気にもなれない。自分の場合、普段はあまりテレビなど見ない人種なのだが、何となく手元のリモコンでスイッチをいれてみると、日本人ピアノトリオがジャズを演奏しているシーンが画面に映し出された(どこかUHF局の深夜番組だろう) しばらく聴いていると悪くない演奏だった。だが、何かが不足しているという印象も同時に感じる。男性ピアニストの奏でる音色と旋律から、どこかで日本人的な生真面目みたいなものが色濃く漂ってきて、ジャズ本来の奔放さとはちょっと異なる違和感を感じるのだ。
そんなとき、ふと先日イベントで耳にした山中千尋のダイナミックで素っ頓狂ともいえる演奏シーンが脳裏に浮かんできた。奔流のように流れるピアノの洪水とでもいうべき演奏だったのだが、あれはまさしくジャズだよなあ、という思いが強くなる。そんなことを考えながら、再びリモコンを操作しチャンネルを替えていくと、画面にはどこかで見たことのあるお嬢さんが映し出されていた。あ、この人、山中千尋じゃないか・・・・。

このときテレビは、NHKの「英語でしゃべらナイト」という番組のゲストで、たまたま彼女が登場していた回を再放送していたらしい。新譜がオリコン初登場20位にランクしたとはいえ、世間的にはまだまだ無名のミュージシャン。しかも、海外在住のこの人がテレビに出演することなど、かなり稀な出来事だろう。それを、誰もが寝静まっているような時間帯に発見できたとは、かなり幸運な偶然だったと思う。だが、偶然はそれだけで終わらない。テレビ画面の山中は、何の前触れもなく、ついさっきまで自分がぼんやり考えていた「日本人とジャズ」にかかわる話題について、自らの経験を語り始めたのだ。

「ジャズを聴いていただくと解ると思うんですけど、リズムや抑揚、イントネーション、それにリズムのとらえ方や耳の働き方が、英語を喋れるのと喋れないのとでは、ちがってきちゃうんです。」

「最初、英語を喋れないときに弾いたのを録音したんですけど、なんだか『あなたのお名前なんてえの』って感じで、私だけずっと五七調なんですよ。」「いきなり私のソロになると俳句なんですよね。」

「日本語だと一言ひとことはっきり発音しますけど、英語だと、リズムに乗って波がうねるようにとか、ビートがあるっていうか…。ある一定のリズム感があるんですね。」

「英語は共通言語なので、やっぱりそうやってリズムをとらえる、同じリズムを感じるっていうのがすごく大事だと思います。」

NHK「英語でしゃべらナイト」HPより引用)

どうやら「ジャズの神様」は、英語を話しているらしい(笑) 味方にするには、神様の住んでいる土地で、神様と同じ言葉を使って暮らし、それを身につけることが大切。山中自身がニューヨークを離れようとしない理由は、音楽環境もさることながら、こんな所にあるのかもしれない。

何かを体得し成果を得たいと思うなら、現場に近いところでその空気を共有することが大事という教訓は、ジャズにかぎらずいろんな分野に応用できそうな知恵だと思う。

そんなお話をちょっと強引に、競馬にあてはめてみよう。
たとえば競馬場に足を運んだとき、メインレースまでボロ負けだったのが、最終レースで運よく1日分の負けとほぼ同額を回収できたということが、たまにある。何種類もある買い目の配当を事前に計算しているわけでもないのに、不思議とそんなことが起こるのは何故か?「競馬の神様って、いるのかもしれないな」(笑)と感じる瞬間である。
このことは、競馬というゲームにおいて、、机上で予想を煮詰める作業だけではなく、現場における嗅覚のようなものを磨いておく意義が、小さくないことを示唆していると思う。パドックで馬をみて、周囲の観客がかもす雰囲気やオッズの動きにも気を配りながら、財布から身銭をきって馬券を買う。あるいは、1日のなかでの自分の運の上がり目下がり目を体感しながら、押すべきタイミングと引き際を考えてみる。目の前を通過する騎手と馬に対して腹の底から声を出し、声援を送る。そんなささやかな振る舞いの繰り返しが、競馬の楽しみ方に彩りを添えているし、知らないうちに神様を味方に引き寄せることにもつながっているのだと思う。
自宅のパソコンや携帯電話で馬券を購入できる時代になっても、わざわざ競馬場まで足を運ぶ。「神様」を味方につけるために、そんな努力を惜しんではいけない

10月 20, 2005 日記・コラム・つぶやき |

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ディープインパクト一色の菊花賞‥ディープが勝つのは既に既成事実、圧倒的な人気で単勝は元返し必至、もはや最初から見るレースなんて諦めている方から、いっそのことディープを外して高配狙い‥なんて方まで‥実はコノレース、一番難しいのは「予想より買い方」です。三冠達成へむけてお祭りムードの中、馬券よりレースに興味が向かいがちな状況、冷静に買い方までアタマが回らない‥のが本音ではないでしょうか。ココでは“クラッシックの流れ”という視点から買い目をギリギリまで絞り込み、「ディープの単」を買うくらいならこういう買い... 続きを読む

受信: 2005/10/20 21:23:19

コメント

私もJAZZが好きで、エラとジョー・パスのデュオなんかをよく車を運転しながら聞いてます。トミ・フラもSWING感が素晴らしいですね。府中にJAZZを聴ける店があるといいんだけど・・・

競馬の神様を味方にするには「嗅覚を磨く」。で、「嗅覚を磨く」ためには競馬でSWINGしなくっちゃ、ですね(笑)

投稿: BIRD | 2005/10/21 14:47:28

BIRDさん、コメントありがとうございます。
競馬とジャズ・・・・けっこう相性のよいジャンルだと思います。
その昔、深夜番組で放映されていた「名馬物語」でもジャズの名曲がBGMで使われ、いい雰囲気を出していましたね。イシノヒカルの回に、「サイドワインダー」とか♪
土曜日は、品川で開催される山中千尋嬢のライブに出かけてきます。

投稿: 山城守 | 2005/10/21 22:25:12

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