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2005/09/01

【書評】「世界一頭のいい人間になる!」ための一冊?

日経・野元記者の至言を借りるまでもなく、競馬の予想とは「頭を使う」遊びの代表格だと思う。なにせ、実際に予想をしてみるまでに、頭に叩き込んでおくべきファクターの数が、途方もなく多い。出走馬の過去の戦績・能力比較から始まって、血統・調教・展開、コース・馬場状態に枠順の有利・不利、さらには騎手の技量・クセや厩舎の思惑まで。目配りするファクターの数が多ければ多いほど、馬券が当たるわけでもないのに、競馬ファンという人種は、往々にして馬券のネタになりうる情報・知識の収集・蓄積に血道を上げてしまう。多種・多様な情報をかき集めたり、記憶の奥底から知識のガラクタを拾い上げたりしては、それらを取捨選択し組み合わせていくことに、競馬というゲームの面白さがあるからだ。

知識・記憶のワードローブが充実してくるにつれ、予想の楽しさがより深まることは間違いない。だが、それに加え、まだ知られざる引き出しの中身を恭しく披露し、人々の歓心を買おうという新たな楽しみも、生まれ出す。いわゆる「ウンチク」というやつだ(笑)
実際、競馬場に足を運んでみると、馬券購入よりも、ディープな競馬知識の交換に忙しい競馬ファンを目撃することがよくある。往々にしてオタク風の男・2人連れという組み合わせ。馬券よりもPOG命というタイプ?かもしれないので、正直、あまりクールな趣味とも思えないが、それでも当事者の楽しみは理解できないこともない。そもそも、自分のように競馬に関わるブログを立ち上げ、毎週毎週、愚にもつかない予想であるとか感想を垂れ流していること自体、世間様に対するウンチク披露以外の何物でもないと思うからだ(汗)

4167651521でも、ちょっと待て。いかに競馬に関わる知識だとか情報をため込んでいったとしても、それって本当に何かの役に立っているのだろうか?所詮はトリヴィアの寄せ集めに過ぎないんじゃないのか?
実際のところ、競馬知識の量と馬券成績が比例しないことは、自身が身をもって知っているわけだし、いくらブログでつまらないウンチクを垂れたところで、毎週の重賞予想でキチンと結果を出しているわけでもない。少なくとも、わが競馬知識の蓄積・公表が、日本経済の成長であるとか、世界平和の実現などに何ら貢献していないことは、明らかだろう(笑)

ところが、知識・情報をかき集め、脳味噌に叩き込むこと自体に、人生を変えるような価値を見いだそうという人が世の中には、少なからず存在している。ここで話題は突然、競馬と違うお話に転換するのだが、最近読破した翻訳小説「驚異の百科事典男」(文春文庫)コイツが思いのほか痛快かつ面白かったのだ。

著者兼主人公は、30代半ばのアメリカ人雑誌編集者。法律学者の父親をはじめ知識人を数多く輩出している家系に生まれ育ち、かつて自分は世界一の神童だったと自負する自意識過剰気味な、中年オヤジである。ところが、学校を卒業してからというもの、知的レベルは急落の一途。日本風に言うなら、立派な大学を出ていながら愛読紙は東スポ?という情けないサラリーマンの風情を全身から漂わせている。
だが、父や義兄に対するコンプレックスからか、「頭がよくなりたい!」と一念発起した主人公は、世界中に満ちあふれているありとあらゆるトリヴィアを実際に自分の頭の中に吸収することで、「世界一頭のいい人間になる」そんな途方もないアイディアを思いつく。方法論は、百科事典の最高峰というべき存在=ブリタニカ全32巻・3万3千ページを完全読破することだ。とにかく「A」から「Z]まで。以下、本編では奥深~い知識(=トリヴィア)の森へ分け入っていった主人公の冒険が、種々雑多なエピソード・ウンチクとともに、縦横無尽に展開されていく。

物語の構成も「A」の章から「Z」の章まで、まさしく百科事典風である。通読すると700頁弱にも及ぶ大河小説並の巨編だが、けっして肩のこるお話ではない。自他共にオタクと認める筆者のキャラクターが良い方向に生かされ、百科事典男の私生活をめぐるドタバタが生き生きと味わい深く活写されている。また、ひとつの単語にひとつのエピソードを対応させた文章は、なんだか「世界一頭のいい人間になる」ためのブログ日記?といった趣も感じられ、興味深い。

ところで、本書の中で披露されるブリタニカ由来のトリヴィアには、競馬にかかわるお話もあった。たとえば、【sporting record(スポーツ記録)】の項では、競走馬の命名に関するウンチクが語られるのだが、祖父が共同馬主をしていた馬に対し、主人公が命名候補として暖めていたアイディア、これが傑作だった。たとえば、「三ハロン(スリーファーロンズ)」とか「重馬場(マディコンディションズ)」とか「ハナ差(バイアノーズ)」とか。アナウンサーを悩ませ、観客を混乱させるための名前ばかりなのである。何だが日本の某有名馬主さんとも通じるセンスだが、ウンチクと遊び心のタネは万国共通ということなのだろう。

おそらく百科事典を完全読破しても、あるいは本書を読んでトリヴィアのタネを増やしても「世界一頭が良くなる」ことは絶対に有り得ないと思うけど、日々の暮らしをちょっと楽しく豊かにするために、知識のガラクタ集めはそれなりに有意義な作業である。
競馬のほうも当たろうが当たるまいが、トリヴィアのスパイスをぴりりと効かせ、予想とウンチクを楽しむ。そんなスタンスで、気ままにやっていきたいものです。

9月 1, 2005 書籍・雑誌 |

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