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2005/08/04

【回顧と考察】函館はカミソリ、新潟・外回りはナタで切れ

nigata_turf_race_0725脚質で“差す”といえば、一般にレース中、後方の一団に位置し最後の直線走路やレースの後半で速い脚を使って、前にいる馬を交わすこと(JRA・HP競馬用語辞典より引用)
そんな差し馬のレースぶりを称して、我々競馬ファンが普段、何気なく使っている表現に「末脚の切れ」という言葉がある。「スパッと切れる脚を使う」とか「牝馬らしい切れ味を発揮した」とか・・・・つまり、競走馬の末脚を鋭利な刃物に例えているわけだが、巧みな比喩を用いることによって、確かにレースのイメージはグッと鮮明になってくる。
だが、一口に「切れる」といっても、競走馬の末脚の質(=決め手)には、一言だけで表現しきれない微妙なニュアンスの差がある。たとえば、一瞬の瞬発力で他馬を突き放してしまうゼンノロブロイの末脚と、長く良い脚を使って伸びてくるスイープトウショウの末脚・・・・そのどちらが優れているか?どちらが強いのか?という問いへの答えはひとまず置くとしても、両者の末脚には、視覚的に見ても明らかな違いがある。これを一括りにして「切れる」と表現しようとするなら、やはり不自然な感じが生じてしまうだろう。
そんなイメージの違いを言葉で言い伝えるために、昔から「カミソリの切れ味」「ナタの切れ味」という表現も使われてきたわけだが、じゃあ、「カミソリ」と「ナタ」って、どこがどう違うんだろう?安全カミソリならともかく、日常的に「鉈」を目にする機会も少ない現代生活を送る我々にとっては、こいつは案外難問だ。先週の関屋記念で豪快な大外一気を決めてみせたサイドワインダーは、はたして「ナタ」なのか「カミソリ」なのか?この馬の場合、福永騎手が「末脚を生かすのがこの馬のスタイルだけど、それにしても切れたね」などと、談話を残しているものだから、話はややこしくなる。

そんなとりとめないことを、つらつら考えていたら、今週号の週刊競馬ブックに掲載されたエッセイで、スポーツライター島田明宏氏が「切れる」という表現に関する興味深い考察を展開していた。これを読んだ後には、だいぶ頭のほうもスッキリしたので、特に印象に残った箇所を以下に引用してみよう。

「切れる」という表現には、「きっちりエネルギーを使い切る」というニュアンスもたぶんに含まれている。88年のサンケイ大阪杯をフレッシュボイスで勝った武騎手は、レース後、「これが『切れる』ということなんですね」といったコメントをした。数年後、それはどういう意味だったのかを彼に訊いてみたら、スパートしてから素晴らしい脚を使い、ゴールした瞬間、フッと余力がゼロになったのだという。 つまり、切れる脚を使える馬というのは、「レース終盤のある短い時間内に、相当な量のエネルギーを一気に燃焼させることができる馬」と言える。着火したら短い時間内に確実に燃焼し切る。着火のタイミングが早すぎると、燃え尽きる地点がゴールより手前になってしまうわけだ・・・(中略)・・・・そうした強さと脆さの二面性を「切れる」という言葉は含み持っている。
   ~週刊競馬ブック8月7日号 競馬は本音で(9)
    島田明宏氏のエッセイより引用~

ここで語られているのは「カミソリ」のような鋭い切れとは、いったい何か?ということだろう。「強さと脆さの二面性」とは実に巧く言ったものだと感心してしまった。だが、短い時間内にエネルギーを燃やし尽くす爆発力があればこそ、中山や阪神の急坂で一気に台頭してくるような競走馬は確かに存在する。坂で先行勢の脚が上がる展開も多いので、それらとの対比で末脚の「切れ」がいっそう際だって見えるという視覚的なバイアスもあるけれど、直線の短いこんなコースで集中力を発揮するのは、いわゆるカミソリ型と定義づけることが可能だろう。坂はなくても、重い洋芝が先行勢の足を止める効果をもたらす函館で2連勝を飾ったエリモハリアーなども、典型的なカミソリ型ではないか?という印象を受けた。

これに対し、関屋記念の舞台となった新潟・外回りコースなどは、短時間完全燃焼のカミソリ・タイプにとって最も辛い条件設定といえる。上がり3ハロンのすべてがホームストレッチ、しかもゴールまで真っ平らの平坦コースなのだから、そもそも追い出し開始のポイントがハッキリしない。好位から瞬発力を生かし抜け出してみても、ゴールまでの距離が長すぎるのでダイワメジャーのように終いが甘くなってしまうのも仕方がないし、さりとてラスト1ハロンだけでカミソリの切れを生かそうとしても、もう手遅れという展開が多々みられる。こんなときに強いのは短時間で一気に加速できなくても、少しづつ燃料を投下しながら、最後の最後までしっかりと末脚が持続するタイプだ。つまりは、ターボエンジンよりも自然吸気型カミソリよりもナタの切れ味が、新潟・外回りにはよく似合うというべきだろうか。サイドワインダーも、まさにそんなタイプと考えるべきだし、新潟同様、3角の下りからゴールまでの末脚を持続力が問われる京都・外回りコースなどでは、能力を全開できる競走馬だと思う。

粗っぽく整理するなら、中山・阪神・函館・(札幌?)などではスパッと切れる「カミソリの切れ味」、新潟・京都(外回り)ではジワジワと伸びる「ナタの切れ味」をもつタイプがそれぞれ狙い目になるということである。では、長い直線と坂の双方を擁する東京コースならどうなの?と問われると、現時点では明快な回答を用意することはできない。とりあえず、瞬発力と持続力を兼備した万能型がいいかな?などと、どっちつかずの結論に落ち着きそうな気もしてくる。
だが、そもそも府中の場合、「カミソリ」だとか「キレ」を云々する前に、トラックバイアスなど競走馬の能力やタイプ区分とは関わりないファクターで着順が左右されることも多い。そこがまた面白いといえば面白いのだが、競馬はやっぱり難しい・・・・

8月 4, 2005 競馬予想・回顧アーカイブ |

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カミソリやナタなどと物騒なタイトルたが、何てことはない、競走馬の末脚の切れ味のこ 続きを読む

受信: 2005/08/09 21:37:48

コメント

お久しぶりです、山城守さん。
仕事が忙しくようやくPC弄れたって感じですよー。
サイドワインダーは残念でしたね。やはり32秒台で一気に駆け上がってくれば、ガラスの脚では太刀打ちできないんですね?
『切れ』というテーマは読ませてもらうと

>ここで語られているのは「カミソリ」のような鋭い切れとは、いったい何か?~典型的なカミソリ型ではないか?という印象を受けた。

これには同感です。2者択一のどっちが正しいかといわれれば言葉に詰まりますが、私としては人それぞれ感動の仕方やグッと来る部分というのはバラバラなので答えはその人次第でいいのでは?と思います。私はどっちかといえば切れるの印象はカミソリ派かなあ?

投稿: Smart boyⅡ | 2005/08/05 19:49:55

smart boyⅡさん、コメントありがとうございます。

[的]競馬ニュース的ブログさんの「次走報など-08/05」をチェックしてみたら、ありゃりゃ・・・・

>サイドワインダー(牡7)の骨折が判明、
>全治まで3ヶ月以上の見込み

ううむ、この年齢で骨折は辛いものがあります。天皇賞の穴馬として期待していたのですが。

投稿: 山城守 | 2005/08/06 0:38:27

ご無沙汰しております。

「ガラスの競馬場」の治郎丸敬之です。

今回の記事ですが、とても興味深く拝見しました。

とても参考になり、刺激にもなりましたので、トラックバックさせていただきました。

これからも素晴らしい記事を期待しております!

投稿: 治郎丸敬之 | 2005/08/09 21:44:31

治郎丸敬之さん、コメントありがとうございます。
「ナタ」と「カミソリ」と一口に言っても、個々の競走馬ごとにタイプを判断していくことは、意外に容易ではないですね。過去のレース回顧から受けた個人的印象に過ぎないのですが、スイープトウショウは現役屈指のナタ型、アサクサデンエンなどはカミソリタイプではないかと考えています。
「ガラスの競馬場」で展開されているスタミナとの関連説もたいへん興味深く読ませていただきました。

投稿: 山城守 | 2005/08/10 1:19:25

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