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2005/07/27

【書評】サウスバウンド 行き当たりばったり流の真骨頂

4048736116奥田英朗は、面白い作家である。長編小説を執筆するときでも、事前にプロットなど一切立てることなく話を書き進めていくのだという。最低限の設定だけを決めてしまえば、あとは行き当たりばったり。書きながら次の展開を考えるので、作者本人も、物語がどう転がっていくのかわからない。そんな作家だからこそ、ジェットコースター的面白みにあふれた物語を生み出せるのだといえば聞こえはいいけど、実際のところ、単にプロットを立てられない体質であるらしい。そのことは、インタビューやエッセイなどでも、しばしば本人が公言している。
実は、当ブログの競馬予想記事なども、基本テーマと最低限のデータだけを設定した時点で原稿を書き始め、肝心の予想はキーボードを叩きつつ、なりゆき任せで考えているということが多々ある。そんな意味で、奥田英朗の執筆作法には、とても他人とは思えぬ親しみを感じるのだが、驚かされるのはそんなやり方で完成させた作品の出来映えである。「最悪」や「邪魔」のように、かなりのボリュームを擁する長編小説でも、全体の構成にまったく破綻が見られない。結果的に破綻しっぱなしの当ブログの競馬予想とは大違いだ(汗)それでいて、登場人物の予想もつかぬ突飛な行動を媒介に物語が急展開していく有様など、「行き当たりばったり」流を標榜する作家ならではの、ストリーテリングの大胆さがあって、本のページを括る手が離せなくなってしまう。読む者を魅了してやまない作風は、もう作者の才能というほかないだろう。

そんな奥田が2年ぶりに発表した長編小説「サウスバウンド
あら筋を一言でいうなら、破天荒な父親・一郎(元・過激派の伝説の闘士)に翻弄され続ける家族の姿を、小学校六年生の長男・二郎の視点から描いた物語である。

全編で500頁を超えるこの意欲作は、大きく分けて2部構成で組み立てられている。すなわち、前半部では東京・中野を舞台に、イマドキの小学生ライフと周囲の大人たちが織りなす様々なエピソードが展開され、後半になると一転して、父の発案で沖縄・西表島に移住する主人公一家の生き生きとした暮らしが描かれる。島への進出を企てるリゾート開発業者との対決で物語は一気に佳境に突入するが、思いも寄らなかった結末の後、作品はさわやかに幕を閉じる。
そんなふうに紹介すると、ゴミゴミとした都会を離れ、自然に帰るライフスタイルを称揚する教条的なお話と捉えられてしまうかもしれないが、実際のところお説教臭さはまったく感じられない。元・過激派の父の言動は、どこまでいっても周囲を振り回し続けるし、クライマックスでは角材まで振り回す大立ち回りを演じる。主人公の小学生はそんな父に悩まされながら、三度の飯を楽しみにして物語世界を駆け回っていく。読者はあまり深く考えることなく、登場人物の立ち振る舞いを楽しみながらページを括っていけばよい。良い意味で、肩のこらない娯楽大作だと思う。

また、特筆すべきはハードカバーの装画の素晴らしさ。沖縄の真っ青な空とサトウキビ畑の緑をバックに、鮮やかな朱色に染められた民家の屋根と魔除けのシーサーがデザインされている。この雰囲気が良いのだ。作品全体に通底するどこかレイドバックしたムードを見事に表現しきっている。
こんな景色の中で日々を送っている西表島の人々も、作中では実にいい味を出していた。「○○さー」と語尾を伸ばす方言独特な言い回しが象徴するように、どこまでもノンビリと楽天的な気風。いいなあ。せっかく逮捕した犯人と泡盛を酌み交わし盛り上がっているうちに逃走されてしまう警察なんか、信じられないけれど本当に有りそうな気がしてくる。

行き当たりばったり流のストーリー展開も楽しいが、そんな作品に漂うムードも最高。
夏らしい小説でレイドバック気分を満喫してみたい方には、文句なくお薦めします。

7月 27, 2005 書籍・雑誌 |

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