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2005/02/19

書評「一瞬の光」正攻法のストーリーテリングを満喫

4043720017.09.LZZZZZZZ本の雑誌が選ぶ2003年度文庫ベストテン第2位
そんな華々しいうたい文句につられ、書店で手に取ってみた文庫本。厚さおよそ六百ページの長編小説である。
頁を開いてみると、紙面一杯に小さな活字がぎっしり打ち込まれており、なかなか重厚長大な第一印象だ。活字中毒(依存症?)の兆候がある自分のような読者にとっては、とりあえずこれだけで嬉しい。
だが、一度頁を括りはじめると、小説世界の面白さにどっぷりと引き込まれてしまい、一気に読了してしまった。
けっして手に汗握るようなスリリングな筋書きが用意されているわけでもないし、ミステリーのように謎解きの楽しさがあるわけでもないのだが、それでも登場人物たちの振る舞いから目を離せなくなってしまう。読了後の手ごたえも、ズッシリした重いものを感じさせ、電車の中で思わず涙腺が緩みそうになったくらい・・・・。

三十八歳の若さで一流企業の課長に抜擢される、まるで島耕作のようなエリートサラリーマン・橋田浩介と、不幸な境遇から心に傷を負った二十歳の短大生・中平香折が、交流を重ねながら、お互いの心に深い絆を紡いでいくお話・・・・要約してしまうと、なんだかひどく通俗的で身も蓋もないあら筋になってしまうが、橋田の会社で繰り広げられる血みどろの派閥抗争と意外な結末、香折の家庭環境に端を発する様々な事件の発生など、多彩なエピソードを散りばめつつ進行する物語の展開は、一筋縄ではいかない。ストーリーが進むにつれ、多面的に広がっていく小説世界は懐が深く、読者はいろんな読み方を楽しむことができるだろう。ある場面においては恋愛小説でもあり、他の場面では企業小説や政治小説。また、エロ小説として楽しむこともできる。橋田と恋人(香折ではない)の濡れ場は、ねっとりと濃厚なタッチで描写され、なかなか扇情的だ(汗)だが、何よりもこの小説の非凡な魅力を生む原動力となっているのは、二十歳の中平香折の人物造形だと思う。

幼少時からの家庭内暴力や性的虐待のもとで人格形成を強いられた彼女の性格は、普通の人間からみると完全に破綻している。常に心にのしかかる恐怖や不安、それに起因する虚言癖、薬物依存、狡猾さ・・・・。誰も信じていないのに、誰かに依存しなければならない矛盾をかかえながら、日々やっとの思いで生きている。ハッキリ言えば、実生活ではあまり関わり合いたくないタイプかもしれない。
しかし一方で、その繊細さゆえに香折は「愛さずにいられない」存在でもある。
物語の序盤、深夜の公園で、槇原敬之の「どんなときも」の歌詞(消えたいくらい辛い気持ちかかえていても・・・・)を、壊れたレコードのようにリフレインする香折を描いたシーンがあるが、これは彼女が抱える複雑さと純粋さを端的に表現しきった名場面だ。そんな一面を垣間見せられると、読者の自分もついつい感情移入してしまい、以降この女の子が次々とみせるミステリアスで不可解な言動から目が離せなくなってしまう。そうした意味では、読者も主人公も運命共同体。橋田が何やかんやと手を焼きながら、彼女の面倒をみ続けているのが、とてもよく理解できるのだ。
ただし、これはひょっとして、男性の自分だから感じてしまう感覚であって、女性読者から見るとまったく別の印象を受けてしまうのかもしれないが。

複雑な様相を呈するストーリーや人物描写にもかかわらず、物語の芯の部分にまったくブレがみられないのは素晴らしい。「一瞬の光」というタイトルや、愛すること・愛されることの意味を問うというテーマの設定は、一歩間違えると陳腐なお説教やお涙頂戴に堕してしまう危険もあるコンセプトだ。だが、作者は堂々と正攻法でこれを描ききってしまい、物語は深い余韻を引きながら幕を閉じる。作者の白石一文にとって、これがデビュー作とのことだが、ストーリーテラーとしての才能の豊かさは、初期の宮本輝を彷彿とさせるようだ。好きなタイプの小説家である。
意外ともいえる小説の結末(内容はネタバレになるので書けない)に対しては、賛否両論もあるようだが、自分はハッピーエンドなのだと解釈しています。

2月 19, 2005 書籍・雑誌 |

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コメント

トラバありがとうございます。
この小説に関しては同じような感想ですね。
思い入れが強い小説家のような気がしますが、
これからも。いまのスタンスを崩さずに書いていって
欲しいと願っています。
継続する作家が少ないですからね、、
打ち上げ花火は綺麗はキレイなんですけど・・・・・

投稿: ogachin | 2005/02/20 22:12:10

Ogachinさん、コメントありがとうございます。
白石一文氏。とりあえず文庫化されている3冊の作品は読破しようと思い、今週から短編集「不自由な心」に取りかかりました。あとがきを読むと、小説作法に関して一家言ある硬派な方という印象を受けますね。けっして奇をてらわないオーソドックスな作風ですが、それだけにストーリーテラーとしての力量には並々ならぬものを感じます。ではでは。

投稿: 山城守 | 2005/02/22 22:59:37

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