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2004/11/26

「バッテリー」~13歳の地図はハードボイルドワンダーランド

4043721021.09.LZZZZZZZ.jpgこんなものを買った。-ムダ遣い日記-さんの書評をみて、面白そうだなと思っていた文庫本である。出張の途中ふらりと立ち寄った書店で「バッテリー」「バッテリーⅡ」の2冊を思わず衝動買いしてしまった。
こんな傑作を読んでこなかったのかと猛烈に反省-北上次郎」「これは本当に児童書なのか!?」という刺激的な宣伝文句に煽られ、期待して頁をめくってみたが、帰り道の新幹線ではやくも1巻目を読了。2巻目も読み出したらもう止まらない状態である。なるほど、これは傑作です馬券オヤジの北上次郎氏(=藤代三郎氏)を唸らせるだけのことはある。宣伝文句に偽りはなかった。

舞台は、岡山・広島県境に位置する山間の地方都市。中学入学を目前に控えた主人公・原田巧が、春休みにこの町に引っ越してきたところから物語は始まる。まだ13歳の少年なのに、プライドの強さで周囲との軋轢も厭わない主人公は、卓越したピッチャーたりうる天賦の才に恵まれいる。この年齢にして、身体的にも精神的にも、投手として成熟し完成されているのだ。そんな巧が、同級生のキャッチャー(永倉豪)と出会い、バッテリーを組む。キャッチャーは大きな身体に似つかわしくないほど、他者の気持ちを思いやる繊細な心根をもった少年だ。好対照の性格でも、意気投合した二人は、短くも印象的な春休みの体験(第1巻)を経て、中学校野球部の門を叩くが、そこで思いも寄らぬ現実と直面していく(第2巻)

こんなふうに紹介していくと、水島伸司の痛快野球マンガみたいなストーリーと思われるかもしれないが(笑)物語の手触りは全く異なる。全体を通底しているのは、児童文学とは思えぬほど、ドライでハードボイルドな感触だ。以下に引用する主人公=巧の世界観を表現した文章に、そんな感触がよくあらわれていると思う。

野球というのは、もっとかわいてサラサラしたものだと巧は思っている。どこにどんな球を投げこんだら、バッターをひとり打ちとれるか。どんなスイングをして一球を打ちかえすか。どんなダッシュをして飛んできた球をとらえるか。そういった技術を高めていく。高い技術をからませてひとつの試合を造っていく。色あざやかな糸で美しい布を織るように、丁重に造りあげていく。そこには、さみしいだろうとか気を悪くしたかななんて心づかいは無用だと思う。ごちゃごちゃした感情はいらないのだ。むしろ邪魔になる。 ~「バッテリー」角川文庫版より引用   

合理主義的でムダがない。反面、人間的な温かみのようなものはバッサリと切り捨てられており、人によっては傲慢という印象を与えてしまうかもしれない。でも、スポーツに対する見識として、もう何も付け加えることがないほど完成されていると思うし、自分自身、こんな物の見方は決して嫌いではない。何よりも、精神主義的な臭いがまったくしないところが快い。

弱冠13歳にして、このようなストイックな思想を形成し、その裏づけとなる身体能力・才能までも備えてしまった主人公が、学校教育や日常という現実と衝突を繰り返していく。思うに任せぬ状況に直面しながら臆することなく、己を信じる気持ちだけを拠り所に正面突破を試みる姿を描いた物語は、型破りで新鮮である。
天才投手といえど、素顔は中学1年生になったばかりの少年。迷ったり、傷ついたり、跳ね返されたり、仲間に助けられたりと、青春小説ならではの紆余曲折も、もちろんある。主人公を囲む仲間の少年や先輩・大人たちを見渡しても、いいヤツもいれば、悪いヤツもいる。現実は、なかなか手強く、思うに任せない。
しかし、巧自身は性懲りもなく、自らの確信をバネにして何度も立ち上がってくる。ハードボイルドなスタンスに揺るぎは感じられず、単なる少年の成長物語に収束していかないところが、この小説のひと味違う醍醐味だ。

作者のあさの氏がみずから「Ⅱ」の文庫版あとがきで述べているように、「自助の覚悟=自らを引き受けて屹立すること」という物語のテーマを、しっかり感じ取っていきたい。願わくば、それが読者の自分にとって、○○歳の地図をハードボイルドに突き進むための羅針盤となってくれることを!

<追記>
「バッテリーⅡ」の続編「Ⅲ」「Ⅳ」「V」は、教育画劇から単行本で発行されています。  12月には、角川から「Ⅲ」が文庫版として発売される予定ですね。

11月 26, 2004 日記・コラム・つぶやき, 書籍・雑誌 |

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「バッテリー」2作目を続けて読んだ。 やりたいことを実現できるなら、その他のどうでもいいことはどうでもいい。それが豪の考え方。どうでもいいなんて妥協は何に対し... 続きを読む

受信: 2005/02/14 23:08:35

コメント

お世話になってます。おお、お読みになりましたか!文庫本で買い始めてしまったので、「次はまだか!」状態なのですが、そうですか、ようやく出ますか、3巻目。楽しみです。

投稿: happysad | 2004/11/26 10:04:08

happysadさん、コメントありがとうございます。「こんなものを買った」・・・・競馬関係だけでなく、音楽・書籍方面のレビューもとても充実していますね。いつも参考にさせてもらっています。
私のところの「バッテリー」の記事は「巧の世界観」に絞って、自分の感想をまとめてみたものですが、これと好対照をなす青波の視点もいいですね。文庫本の表紙イラスト、1巻目が巧で、2巻目が青波を描いたものでしょうか?
「Ⅲ」も楽しみです。

投稿: 山城守 | 2004/11/28 21:19:36

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